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瑞原唯子
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2007/11/7 (Wed.) 03:27:54
ファンタジー小説「遠くの光に踵を上げて」 第92話・本当のこと
アンジェリカの誤解を解く方法で、 思いつくのはひとつだけ。 だが、それだけは出来ない。 明るく気丈に振る舞う彼女を見て、 サイファもジークも強く思い悩む。
------------------- サイファは腕を組み、難しい顔でうつむいた。軽くため息をつき、窓際へと歩き出す。革靴がタイルの床を打ち鳴らす。無機質な音が病室に響いた。 「何とか誤解を解いてやりたいとは思っているんだけどね。いい手が、思い浮かばないんだ」 窓枠に左手をおき、ガラス越しの空を見上げた。青色の空に薄いレースのような雲が掛かっている。枯茶色の小さな鳥が二羽、目の前を横切った。 「ジーク、どうしたらいいと思う?」 ゆっくりと振り返り、薄い笑みを浮かべ、ベッドの上の彼を見つめる。鮮やかな青の瞳が小さく揺れた。 ジークは何も答えられずに目を伏せた。サイファに思いつかないものを、自分が思いつくとは思えない。自分が考えついた方法はひとつだけ――おそらくサイファもそれはわかっているはずだ。わかっていて尋ねているのだろう。決心がつかないのだ。迷っているのだ。 そして、それは自分も同じだった。アンジェリカにとって、彼女の家族にとって、それが良い方法なのかわからない。だから、それを口にすることが出来なかった。彼を後押しすることが出来なかった。 ギュッとシーツを握りしめた。力を込めた手は、わずかに震えていた。体中からじわりと汗が滲んだ。 沈黙がふたりの間に横たわる。ふたりとも身動きすらしなかった。 遠くで鳥のさえずりが聞こえた。 微かな木々のざわめきが聞こえた。 何も聞こえなくなった。 何も……。 「本当に、まいるよ」 サイファが長い静寂を打ち破った。落ち着いた声だった。 ジークが顔を上げると、彼は寂しげに微笑んでいた。 -------------------
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